ティファレトのセフィラ

Fate/side story
フェイトsidestory螺湮（ライン）
ティファレトのセフィラ


　ボックス呼吸法として【魔法カバラー入門】に記述されている四拍呼吸だが魔術師‐秋端勉が腹式呼吸を推奨している。
　俺が切嗣から教わった魔力（エーテル）の練り上げ方法の初歩も臍下丹田に照応するイエソドのセフィラに意識を集中する腹式四拍呼吸だ。
　しかし針灸術で壇中のツボとも呼ばれる胸間壇中に照応するティファレトのセフィラに意識を集中させる場合、胸式四拍呼吸が適しているだろう。
　普通のヒトならば一度に一つのことしか考えられないものだ。
　人体を演算装置として使う錬金術師ならば思考分割法で複数の思考を脳内で運用すると遠坂が言っていたが、凡人の俺じゃ不可能な芸当である。
　胸部中央の壇中に意識を集中しながら腹式四拍呼吸を継続するという分割思考など俺でも出来ない。
　俺が出来ないことを蒔寺に押し付けられないのでボックス呼吸法を胸式四拍呼吸に切り換えるよう指示する。
「蒔寺、ボックス呼吸法を胸式四拍呼吸にして、左右の乳首を結んだ線のちょうど真ん中あたりにある壇中のツボに意識を集中しろ」
「うわ衛宮やらしー、乳首だって」と蒔寺が言った。
　胸部の中心線と左右の乳首を結んだ線が交わるところと言いたいだけなのだが、セクハラ扱いされた。
　感情的な抑揚を徹底的に排除した平坦な発音で機械的に説明してみる。
「壇中／任脈第１７穴／心包経募穴／八会穴の気会穴／胸骨前面の正中線上／両乳頭を結ぶ線上／ほぼ第４肋間の高さに位置／ティファレトのセフィラに照応する」
「おわあ！　ごめんよう……ターミネータ？」と蒔寺が言った。
「衛宮……本気で恐怖の殺人機械みたいだから勘弁してやってくれ」と氷室が言った。
「ごめんね衛宮くん、蒔ちゃんの冗談だから怒らないであげて」と三枝が言った。
　感情を抑制していたから怒ってなどいない。
　しかし俺の無表情が仲良し３人組の恐怖を喚起してしまったようである。
　今日の手慰み素人魔術講座をここまでとしよう。